ミラノ・コルティナオリンピックが開催されいるこの時期に解説させて頂きます。
多くのアスリートにとって、ドーピングといえばサプリメントや薬の問題だと思われがちです。しかし実際には、毎日のスキンケアで使用される化粧品にも、選手生命を左右するリスクが潜んでいます。
本記事では、アスリートが化粧品を選ぶ際に知っておきたいドーピングリスクについて、経皮吸収のメカニズムから具体的な禁止成分、実際の違反事例まで丁寧にご紹介していきます。
この記事でわかること:
- 化粧品がドーピング違反になる仕組み
- 経皮吸収によって体内に取り込まれる禁止物質
- 具体的にリスクのある製品カテゴリと成分名
- 「うっかりドーピング」を防ぐための確認方法と相談先
なぜ化粧品がドーピング問題になるのか
アスリートの「厳格責任」の原則
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める規則において、アスリートは厳格責任(Strict Liability)の原則に従います。これは、体内から禁止物質が検出された場合、その摂取が意図的であるかどうかに関係なく、アスリートご本人がドーピング違反の責任を負うという原則です。
つまり、「知らなかった」「わざとではない」という弁明は、基本的に通用しません。
この原則は口から摂取するサプリメントや薬だけでなく、皮膚に塗布する化粧品やスキンケア製品にも同様に適用されます。
参考: 日本アンチ・ドーピング機構(JADA) - 禁止物質と方法
体内に入る全ての経路が対象になります
禁止物質が体内に入る経路は、経口摂取だけではありません。JADAの公式サイトでも明記されている通り、以下の全ての経路が対象となります。
経皮吸収のメカニズムとリスク
経皮吸収とは何か
経皮吸収とは、皮膚の表面に塗布された成分が角質層を通過して真皮に到達し、毛細血管に取り込まれて血液中に移行する現象のことです。
医療の分野では、この仕組みを利用した「経皮吸収型製剤(パッチ剤)」が広く使われています。禁煙パッチやホルモン補充パッチなどがその代表例ですね。
つまり、皮膚に塗ったものは体内に入ります。これは医学的に確立された事実であり、化粧品に含まれる成分も例外ではありません。
なぜ化粧品の経皮吸収が見落とされるのか
多くのアスリートが化粧品のドーピングリスクを見落としてしまう理由には、以下のようなものがあります。
- 「飲んでいないから大丈夫」という誤解: 経口摂取のみがリスクだと思い込んでいる
- 化粧品は「食品でも薬でもない」という認識: 化粧品は安全だという先入観がある
- 微量だから問題ないという油断: ドーピング検査の感度は極めて高く、微量でも検出されます
- 日常的な習慣への無警戒: 毎日使うスキンケア製品に対して疑いを持ちにくい
経皮吸収が特に高まる条件
以下の条件では、化粧品成分の経皮吸収率が通常よりも高くなります。アスリートの活動環境と照らし合わせると、そのリスクの高さがよくわかりますね。
| 条件 | 理由 | アスリートとの関連 |
|---|---|---|
| 皮膚温度が高い | 血流増加で吸収促進 | 運動中・運動後の体温上昇 |
| 発汗している | 角質層のバリアが弱まる | トレーニング中の大量発汗 |
| 皮膚に傷がある | バリア機能が破壊されている | 擦り傷、テーピング後の肌荒れ |
| 広い面積に塗布 | 吸収量が増加 | ボディ全体への日焼け止め塗布 |
| 長時間の接触 | 吸収量が増加 | 練習中の化粧品の長時間付着 |
アスリートは一般の方よりも経皮吸収のリスクが高い環境にいることを、ぜひ知っておいていただきたいポイントです。
具体的にリスクのある製品と禁止成分
育毛剤・発毛剤
最も見落とされやすいリスク製品が育毛剤です。体毛や髭(頭髪以外)を増やす目的で使用する一部の育毛剤には、テストステロンやメチルテストステロンが含まれています。
これらは「S1. 蛋白同化薬」に分類される常時禁止物質であり、競技会内・競技会外を問わず、いかなる時期も使用が禁止されています。
具体例:
- メチルテストステロンを含む塗り薬(ミクロゲン・パスタ等)
- テストステロン配合の育毛外用剤
塗り薬であっても、皮膚からゆっくり吸収されて血管に入り、血液の流れにのって有効成分が全身に作用するため、ドーピング検査で検出されてしまいます。
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)配合製品
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は、いわゆる「若返りホルモン」として海外のアンチエイジング製品に配合されることがあります。
しかし、DHEAはWADAの禁止表において蛋白同化ステロイド(筋肉増強剤)として分類される禁止物質です。日本国内では「医薬品」の指定を受けており、サプリメント(食品)として販売すること自体が法律で禁止されています。
注意が必要なケース:
- 海外通販で購入した「アンチエイジングクリーム」
- 個人輸入したスキンケア製品
- 海外旅行先で購入した美容製品
海外製化粧品・スキンケア製品の未表示成分
海外で製造されたスキンケア製品やサプリメントの中には、ラベルに表示されていない禁止成分が添加されているものがあります。
効果を実感させるために、興奮薬やステロイドなどの医薬品成分が無断で配合されている事例が毎年報告されています。ラベルを確認しても判断できないため、海外製品の使用には特に慎重になっていただくことをおすすめします。
気管支拡張剤の貼り薬
気管支拡張剤の貼り薬は、喘息やアレルギー対策として使用されることがありますが、皮膚からゆっくり吸収されて血管に入り、ドーピング検査で検出される場合があります。
貼り薬は「塗り薬と同じ外用薬だから安全」と誤解されやすいのですが、経皮吸収型製剤そのものであり、成分は確実に体内に移行します。
マッサージオイル・ボディトリートメント製品
エステサロンやスポーツマッサージで使用されるマッサージオイルやトリートメント製品にも注意が必要です。
特に以下の成分が含まれていないか、事前にご確認ください。
- ステロイド系抗炎症成分: 一部のボディクリームに配合されることがあります
- ホルモン系成分: アンチエイジング効果を謳う製品に含まれる場合があります
- 植物由来のステロイド類似物質: 天然成分であっても禁止物質に該当する場合があります
ドーピングリスクを確認する方法
Global DRO(グローバルDRO)
Global DROは、薬の成分や商品名から禁止物質に該当するかどうかを検索できるオンラインツールです。アメリカ、カナダ、イギリス、スイス、日本、オーストラリア、ニュージーランドの7カ国が協力して運営しています。
使い方:
- Global DRO公式サイトにアクセス
- 薬の商品名または成分名を入力して検索
- 「ステータスを見る」をクリック
- 投与経路や競技会・競技会外ごとの注意事項を確認
ただし、Global DROは主に医薬品を対象としており、化粧品の全成分を網羅しているわけではない点にご注意ください。
JADA公認スポーツファーマシスト
薬の確認方法やGlobal DROの検索結果についてわからないことがあれば、JADA公認スポーツファーマシストにいつでもご相談いただけます。
スポーツファーマシストは、アンチ・ドーピングの専門知識を持つ薬剤師で、全国に配置されています。化粧品に含まれる成分についてもご相談が可能です。
WADA禁止表国際基準
WADAの禁止表は毎年1月1日に更新されます。前年まで許可されていた成分が新たに禁止されるケースもあるため、定期的なご確認が欠かせません。
参考: JADA - スポーツにおいて禁止されている物質と方法
アンチ・ドーピング認証制度
化粧品やサプリメントの安全性を第三者が保証する認証制度もございます。
| 認証名 | 運営 | 特徴 |
|---|---|---|
| インフォームドスポーツ | LGC社(イギリス) | 全製造バッチを分析、最も厳格 |
| インフォームドチョイス | LGC社(イギリス) | 毎月1回の無作為サンプル分析 |
インフォームドスポーツ認証は、化粧用オイルやサンスクリーンなどの化粧品にも取得実績があります。製品選びの際の指標として、ぜひご活用ください。
まとめ
アスリートにとって、化粧品やスキンケア製品は単なる美容アイテムではありません。経皮吸収によって禁止物質が体内に入るリスクがあり、それは選手生命に直結する大切な問題です。
重要なポイントの振り返り:
- 皮膚に塗布するものは全て体内に吸収される可能性があります
- アスリートは高体温・発汗によって経皮吸収率が一般の方より高くなります
- 育毛剤、海外製品、エステ使用製品は特にリスクが高い傾向にあります
- 「知らなかった」は厳格責任の原則により免責されません
- Global DRO、スポーツファーマシスト、認証制度を活用して、ご自身の身を守っていきましょう
後編では、アスリートが安心してご利用いただけるスキンケアとエステの選び方、そして美肌ケアがパフォーマンスに与えるポジティブな影響についてご紹介します。
参考文献・出典:
- JADA - スポーツにおいて禁止されている物質と方法
- Global DRO検索
- JADAクリーンスポーツ・アスリートサイト
- 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター - アンチドーピングの基礎知識
- 東京都薬剤師会 - うっかりドーピングを防止しよう
- JSPO - ドーピング違反になったら?
- イルホープ - アンチドーピング認証と分析の違い
- インフォームドスポーツ認証について
最終更新: 2026年2月
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